![]() | エアリアル ケイト・ブッシュ (2005/11/02) 東芝EMI この商品の詳細を見る |
生半可な聴き方ではとても理解できそうにない
曲目
ディスク1
1King of the Mountain
2π
3Bertie
4Mrs. Bartolozzi
5How to be Invisible
6Joanni
7A Coral Room
ディスク2
1Prelude
2Prologue
3An Architect's Dream
4The Painter's Link
5Sunset
6Aerial Tal
7Somewhere in Between
8Nocturn
9Aerial
ケイト・ブッシュはデビュー・アルバムの「Kick Inside(天使と小悪魔)」から3作目の「魔物語」までのアルバムはもう無条件で素晴らしい内容と思える、好きなアーティストだった。
別世界から聴こえてくるような高音の声といい、天使のように可愛らしい容姿といい、その妖しく美しい不思議な楽曲といい、そのアーティスティックでファンタスティックな独自の世界が聴くものを圧倒した。
1978年にデビューしたケイト・ブッシュは、かつて日本で行われていた国際的な音楽祭である東京音楽祭に来日出演し、テレビ中継でもそのステージの模様が放映されたのを私はかすかながら憶えている。
たしか羽衣のようなひらひらした衣裳をきて、不思議なダンスをしながら歌っていたように憶えているのだが…。
あまりに昔のことで、何かあれはまるで夢の中だったような気さえしてくる。
その後、ケイトは4作目の「ドリーミング」くらいから音楽的にはさらに凄みを増してゆくのだが、やや音が複雑でマニアックな方向にいってしまったので、私はもうこのアルバムくらいからちょっと彼女の音楽にはついてゆけなくなった。
その後何作かアルバムを出しているのは知っていたが、それ以降あまり彼女の曲を聴くこともなくなっていた。
この新作「エアリアル」は前作「レッド・シューズ」以来12年ぶり(!)の作品ということだから、ずいぶん久しぶりになる。
全体的には初期の曲のように分かりやすくポップな曲は少なく、高音のヴォイスも出なくなってはいるが、全編マニアックな音創りというよりは、なるべく音数(おとかず)が抑えられた、耳あたりのよい音をケイトは目指しているのではないだろうか。
そのため、2枚組というボリュームながら、聴き終わって疲れた感じが残らない。
どの曲も現在の音楽シーンのトレンドとはまったく関係のないケイト独自の世界が展開されているので、とても今の若者にウケる音楽という感じはしないのだが、ひとつひとつの曲の質・純度の高い曲が揃っているから、繰り返し何度も聴いてゆくうちにだんだん良くなってくるようなタイプのアルバムだ。
ただし、最後の2曲はそれぞれ8分くらいの大曲なので、生半可な聴き方ではとても理解できそうにないかも。
シンセサイザーを使用したり、リズムが強調されたパーカッシブな曲もあるが、シンプルなピアノの伴奏が中心となった〈ディスク1〉#4や#7や〈ディスク2〉#5のような曲の方にこそ、この人の才能が大きさが生きているように思う。


「『もどり道』にもどる陽水」
2006年8月19日、人見記念講堂で行われた井上陽水の最新のライヴの模様と陽水のインタビューがオンエアされた。
〈OAされた曲目〉
・「闇夜の国から」
・「なぜか上海」
・「夏まつり」
・「白いカーネーション」
・「海へ来なさい」
・「飾りじゃないのよ涙は」
・「招待状のないショー」
・「11:36 LOVE TRAIN」
・「とまどうペリカン」
・「長い猫」
・「リバーサイドホテル」
・「感謝知らずの女」
・「氷の世界」
・「夢の中へ」
・「少年時代」
・「おやすみ」
・「あなたにお金」(収録)
近年の井上陽水は、以前のコンサートぎらいで有名だった頃の彼とはうって変わり、精力的にライヴ活動をこなしている。
それは、陽水がミュージシャンとして世に出た1970年代当時の彼のようでもある。
井上陽水は今年4年ぶりに新しいアルバム「LOVE COMPLEX」を発表したが、今回のこの一連のコンサートツアーでは、その新作を中心とした新しいスタイルをアピールするというよりも、デビュー当時の原点に戻った井上陽水の総決算的な形になっていることが分かる。
陽水が今こういった形に戻ってきているのは、年齢的なこと(今年で58歳)か、心境の変化か、セールス的なもの(たしかに最近は大ヒット曲は無くなった)なのか、いやそのすべてなのかは知るよしもないが、私が思うに最近の陽水の発言から察するに、年齢を重ねたことによる心境の変化が何よりも大きいと感じているのだ。
彼の30代から40代前半くらいの頃のライヴはその圧倒的な声量とパワーで押しまくるタイプのロック・コンサートであって、そのパワーでややもすると観客を置き去りにするような感じのするコンサートだった。
ところが、この日のコンサートは、もっと観客と語り合うような雰囲気のものになっていることが分かる。
それはとりも直さず、彼のデビュー当初の頃のコンサート・スタイルつまり、ライヴ・アルバム「もどり道」のスタイルであることに気付くのだ。
ライヴのオープニングから前半は弾き語りによるアコースティックなスタイルで、後半にバンドを入れたエレクトリック・スタイルをもってくるという構成だ。
前半の弾き語りでは、少し前までのライヴではほとんど聴くこともなくなった「白いカーネーション」や「夏まつり」といった初期の名曲が披露されている。
もちろん「もどり道」の頃とは陽水の声はだいぶ変わってしまいキーも下がったが、それを補ってあまりあるほど初期の曲というのは素晴らしい。
後半のエレクトリック・セットでは陽水らしい新曲の「長い猫」や名曲の数々が演奏されたが、あらためて「リバーサイド・ホテル」という曲。
この曲は陽水の声、発音、詩とメロディーのすべてがうまくきっちりとハマッた曲という気がした。
この曲ほど陽水らしい曲はないのではないか、と思うほどやっぱりスゴイですね、この曲は。
「少年時代」「おやすみ」と続けたアンコールのセンチメンタルな世界は、陽水の歌の普遍的な美しさを実感させてくれるもので、じつに感動的なフィナーレだった。
原点に還ってきた井上陽水。また新たな段階に入ってきたという気がする。

![]() | ULTRA BLUE 宇多田ヒカル (2006/06/14) 東芝EMI この商品の詳細を見る |
「いい音楽がわかっている人」
曲目
1This Is Love
2Keep Tryin'
3Blue
4日曜の朝
5Making Love
6誰かの願いが叶うころ
7Colors
8One Night Magic Feat. Yamada Masashi
9海路
10 Wings
11 Be My Last
12 Eclipse (Interlude)
13 Passion
たしか前作?の初の全米向けアルバム「Exodus」の曲にはまったく魅力が感じられなかったものだが、日本語で作られたこの新作には、やはり宇多田ヒカルならではの魅力が随所に発揮されている。
過去3枚の日本語アルバムはどれもが大ベストセラーであり、どれもが高い完成度と新鮮な感覚に彩られた傑作であったが、このアルバムもまた、ほかの日本人アーティストとは違った次元の音楽が詰め込めまれているといった感じの作品になっている。
透明感のあるサウンドとキーの高い宇多田ヒカルのヴォーカルが溶け合って、どの歌も非常に耳ざわりがよく聴きやすいのが特長だ。
耳に心地よい音楽、いい音楽というものが感覚的によく分かっている人だと思う。
ある雑誌のインタビューで宇多田は、このアルバムを創っていて気をつけていたことのひとつとして、「シンプルに創ること」を第一に挙げていた。
彼女のオフィシャルHPを見てみると、好きなアーティストとして、モーツァルトやプリンスや美空ひばりの名を挙げているが、これらの音楽家の曲はみなシンプルだ。
なるべくシンプルな音で創る。音数(おとかず)があまり多くなり過ぎないようにする。
良い音楽はみなシンプルなものだ。
このアルバムの曲はみなシンプルで美しい。
また、詩の面では、これもシンプルでいながら、ぐっと心に響く詩がたくさんあるのは日本語アルバムならではだ。
宇多田ヒカルの趣味は読書だそうだが、それがこの深みのある詩を書ける原動力であることは間違いない。
たくさんの本を読んでいれば、他の、本も読まないような日本人の同年代の女性シンガーでは書けない詩がたくさん書けることも当然だ。
例えば、私の好きなフレーズに、
誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ
みんなの願いは同時には叶わない
というところがあるのだが、この詩の正確な意味がなんなのかは聴く者それぞれが考えたらいいとして、私はすごく実感としてこのフレーズが分かるから、この歌詞を最初に聴いた時はドキリ、とさせられた。
こういう詩が書ける人というのは、私は今、中島みゆきくらいしか頭に浮かんでこなくて、いやあ、すごいなあと思っているのだ。
宇多田ヒカルはまだまだ若い。
これから歳を重ねるにつれて、いったいどんな歌を創ってゆくのだろう。楽しみな人だ。


エルヴィス・プレスリーが日本も含めて、全世界に同時衛星生中継を行った伝説のステージ。1973年のエルヴィスは、おなじみの襟の高い白いジャンプスーツで、今見てもじつにかっこいい。60年代の若い頃のエルヴィスに比べ、たしかに太ってはいるが、まだそんなに醜いほど太っていないし、空手を思わせる豪快なアクションも健在で、ちっとも衰えは見られない。
だが、そんな見てくれうんぬんよりも、このステージでのエルヴィスの歌、声。
じつに歌に深みが増して素晴らしいものになっている。
私はまだ洋楽を聴いていなかった頃、エルヴィスに抱いていたイメージというのは、すでに中年のヴォーカリスト、おばさんのアイドルのシンガーといったイメージだった。
だが、20年以上も洋楽を聴き続けた今の私の耳で聴くこの映画でのエルヴィスはとてつもなく大きい存在に感じる。
これだけ様々なタイプの歌を全部、エルヴィス独自の歌にしてしまい、すべてを自分の世界に引き込んで歌ってしまう、この大きさ。
若い頃歌っていたロックンロールを歌っても、ちっとも古くさい感じにならないし、「マイ・ウェイ」を歌っても、ださくならない。最後の「好きにならずにいられない」だって、変に感情過多じゃなくてさらっとしていて、それでいて素敵なのは、やっぱりセンスがいいからだ。
エルヴィスだけ聴いていれば、アメリカの音楽がすべて分かるくらいのスケールの大きいシンガーに、この頃のエルヴィスはなっていた。
また、このコンサートは、現代の多くのコンサートみたいにやたらにアーティストが力が入って、張り切りすぎてて、こっちが疲れてしまうようなものになっていないところがいい。
エルヴィスもすごく楽しみながら歌っているし、観客もリラックスして観ている様子がよく伝わってきて、いいコンサートですねえ、これは。
女性ファンがエルヴィスの汗をふいたスカーフをもらって狂ったように大喜びするおなじみのシーンや、観客の熱狂する様子を見て吹き出しながら歌ったりするシーンなど、思わず笑ってしまうシーンがいっぱいあって、エルヴィス・プレスリーという人の人間的な魅力が感じられる。
だって今どき、あんな汗を拭いたスカーフを配れるアーティストなんて、ほかにいませんよ。
強烈な個性と、幅広い歌唱力。
やはり、この人を上回るシンガーは歴史上現れていないのではないだろうか。

![]() | KAELA (通常盤) 木村カエラ (2004/12/08) コロムビアミュージックエンタテインメント この商品の詳細を見る |
曲目
1Unitie (Album Take)
2You Know You Love Me?
3あの頃
4Happiness!!!
5Inventor
6D.T.S.
7Level 42 (Album Take)
8誰
9Because
10 Weak
11 What Ever Are You Looking For? (Album Take)
12 Sola
図書館で借りて、ここのところよく聴いている。
このコの声は、前々からFMなどで聴いてちょっと気にかかっていて、面白いなあ、といつも思っていた。
歌い方や声の質感のようなものがちょっと日本人ばなれしてて、変わっているなあ、などと思っていたら、やっぱり純粋な日本人ではなくて、どうもハーフ?なのだそうだ。
このアルバムはデビューアルバムでその後にもアルバムを出していて、ますますカエラ人気は高まってきているようで、最近ではなんとあの伝説のサディスティックミカバンドにも参加するようで、今やひっぱりだこの存在だ。
アルバムでまとめて彼女の曲を聴いたのは初めてだったが、やっぱり予想した通り、ポップで面白い。
バックはかなり力強くかっちりと作られたロック・サウンドで、それに乗るカエラのヴォーカルは、これまたバックに劣らず元気。
しかし音程は意外としっかりとしていて、すごく声がよく出ているから、聴いていてなかなか気持ちがいい。
明るく、ポジティブで、スピード感のある曲が多く、ライヴ映えしそうな曲ばかりだ。
シングルになった#4もすごくいい曲だと思うが、私は特に、はちゃめちゃなスピード感を持った#8や、日曜日の朝のまったりした感じのような、少しほっとさせる最終曲の#12などが好き。

![]() | ザ・グレイテスト・ソングス・オブ・ザ・フィフティーズ バリー・マニロウ (2006/08/23) BMG JAPAN この商品の詳細を見る |
曲目
1思い出の時
2恋のゲーム
3アンチェインド・メロディ
4ヴィーナス
5イッツ・ノット・フォー・ミー・トゥ・セイ
6慕情
7心は王様
8シンシアリー/今夜教えてね (デュエット・ウィズ・岩崎宏美)
9今夜はひとりかい?
10 心の青春
11 夢を見るだけ
12 ホワット・ア・ディファレンス・ア・デイ・メイド
13 ビヨンド・ザ・シー
14 ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー
全米ナンバーワンヒットとなったアメリカ盤が出てから、待って待ってようやく発売された日本盤を買った。
バリー・マニロウの70年代の曲はほんとうに素晴らしい曲がたくさんあって、私も大好きで、ほんとうによく聴いた。
「涙色の微笑」「Even Now」「コパカバーナ」、、数々の名曲を生み出し、フランク・シナトラの後を継ぐヴォーカリストとして、快進撃は続くように思われた。
しかし、80年代、90年代と徐々にバリーの発表する曲がワンパターンになってきて、曲自体の質もやや落ちて、ヒット曲も出ないようになってきた。
その上、時代はラップやヒップホップが台頭する時代。バリーのような正統派のバラードシンガーは時代に取り残される格好となった。
その後もバリーは様々なタイプの音楽に挑戦した作品を出し続けてはいたが、私にはやっぱり70年代の名曲の数々が忘れられず、新しい曲で聴いてみようという気にはならないでいた。
だけど、時々聴きたくなるのが、70年代のバリーの曲だ。
心が、体が、疲れきってしまった時、いやな事があった日、ストレスでつぶれそうな時、バリーの優しい歌声に包まれたくなる。
いい歌は、20年30年経っても聴きたくなるものだ。
ところが最近、久々にうれしいニュースが入ってきた。
バリー・マニロウの新作がビルボードのアルバム・チャートで1位になったというのだ。
それが、このアルバム。
1950年代の名曲をカバーしたアルバムで、プロデュースは久しぶりにアリスタのクライブ・デイヴィスが担当している。
クライブ・デイヴィスは70年代のバリーの黄金時代のプロデューサーで、アリスタ・レコードの社長。
彼は、いい音楽というものを知りつくした人で、最近はロッド・スチュワートのカバー・アルバム・シリーズを手掛けて大ヒットにつなげた。
しかし私は、ああいった決して正統派とはいえないロック・ミュージシャンのロッド・スチュワートが変にこねくった歌い方でオールド・ソングを歌っても、あれだけ大ヒットするのだから、バリー・マニロウのように「ちゃんと」歌える人がオールド・ソングを歌ったら、もっとぜんぜん良いものができるとずっと思ってきた。
それはクライブも分かっていたのだろう。こういうアルバムを出せるのは、今バリー・マニロウ以外にいないということが。
今の時代は、ロックからスタートしている人がほとんどになってしまったから、バリーのようにアメリカン・ポップスをちゃんと歌いこなせる人は少ない。
バリー・マニロウのようなシンガーは現代、逆に希有な存在となった。
このアルバムを聴くと、久しぶりに昔の友人に逢えたような嬉しさにひたれる。
メロディーがきれいで、バリーのやさしい声も健在。
ほんとうに歌のうまい人の歌を聴いたのって久しぶりという感じがする。
岩崎宏美とのデュエットも違和感なく入っていて、なかなかいい雰囲気だ。
美しいアレンジで50年代の名曲を現代によみがえらせた、これから何十年も聴けるアルバムだ。
今年で60歳になったバリー・マニロウ。
まだまだ元気で、そのやさしい歌声を聴かせてほしい。

![]() | ルース ネリー・ファータド、アティチュード 他 (2006/06/07) ユニバーサルインターナショナル この商品の詳細を見る |
曲目
1アフレイド feat.アティチュード
2マンイーター
3プロミスキュアス~ふしだらなビート feat.ティンバランド
4グロウ
5ショウタイム
6ノー・アイ・イグアル ~ あなただけ
7テ・ブスケ ~ あなたを探して・・・ feat. フアネス
8セイ・イット・ライト
9ドゥ・イット
10 イン・ゴッズ・ハンズ
11 ホワット・アイ・ウォンテッド
(日本盤ボーナストラック)
12 ウェイト・フォー・ユー
13 オール・グッド・シングス (カム・トゥ・アン・エンド)
14 レット・マイ・ヘア・ダウン
(ボーナストラック)
15 サムバディ・トゥ・ラヴ
(ボーナストラック)
ネリー・ファータドの今度の新作のジャケットは、高原の少女風だった前2作とは打って変わって真っ赤でセクシーな雰囲気の漂うデザインだ。
このビビッドな色のジャケット同様、今回の彼女の作品は刺激的でパワフルかつセクシーなビートで彩られている。
前2作は彼女の多様な音楽性が発揮された質の高い作品だったが、今作はなんといってもティンバランドとのコラボレーションを中心にしたヒップホップ色の濃い作品になっている。
もともとミッシー・エリオット、ティンバランドとの交流もありヒップホップもこなせるアーティストであるネリーだが、「I'm Like A Bird」のようなアコースティックな曲に魅力のある人で、どちらかというと、そちらの面でヒットしてきた人だから、今作のようなヒップホップを前面に打ち出したアルバムを出してきたのは、ひとつの驚きであった。
私は前作のリンジー・バッキンガム風のギター・サウンドが好きだったので、このアルバムの先行シングルの「マンイーター」を聴いた時は、やっぱりネリーもこういう方向へいってしまうのか、と少し不安がよぎった。
今や、ティンバランドの音というのはあまりにも多く出回ってしまっているので、こういう音でネリー・ファータドという才能・個性が塗りつぶされてはしまわないか、という不安だ。
ところがアルバムを聴いてみると、意外にヒップホップ色の強い曲は、昔のLPレコードでいうところのA面に集められていて、B面、つまり後半の#7くらいからはオーガニックなサウンドや正統派的なポップスが出てきて、ほっとさせられる構成になっている。
前半の、時代の空気を感じさせるようなハイパーなヒップホップも面白いが、後半のひとつひとつの楽曲の多彩な色どりもじつにスゴいと思わせるものがあって、あらためて彼女の作曲能力のすごさを感じる。
プリンスが最近のインタビューの中で、今、注目しているアーティストとしてビヨンセとネリー・ファータドを挙げていたが、ネリーのヴァーサタイルな音楽スタイルはプリンスの才能と共通しているものがある。
このアルバムでも決してヒップホップ一辺倒にいってしまうことなく、様々なスタイルの音楽を見せてくれているところが素晴らしい。
まだまだこの人、引き出しがありそうだ。
彼女は、いい音楽がどういうものかというものがすごく分かっている人だ。
非常にセンスがいいし、聴く人を楽しませる術を知っている。
これから先、どれだけ凄くなってゆくのかほんとうに楽しみな人だ。

![]() | 号泣する準備はできていた 江國 香織 (2006/06) 新潮社 この商品の詳細を見る |
12編の短篇の収められたこの本は12篇のどれもそれほどスタイルに違いがなく、女性の主人公の何か満たされない愛の心象風景のようなものを綴った話が多かった。
こういうタイプの小説というのは「ダヴィンチコード」のようなものを読んだ後に読んだら、もう退屈で退屈で眠ってしまいそうになるだろう。
ぐいぐいストーリーに引き込まれて読むようなタイプの話ではない。
ゆっくりと読んで、何かを感じ取るべきなのだろう。
この小説の主人公はたいてい過去に離婚していたり、浮気していたり、夫婦関係がぎくしゃくしたりしていて、心に何かすっきりしないものがある。
こういうものを読んで、なんとなくカタルシスを感じる読者もいるのだろうが、私はあまり感心しなかった。
こういう小説を読んで、なんとなくこの主人公たちのような生き方をすることがかっこいい、なんて思う女性がきっとこの世の中にはいるのだろう。いや、たくさんいるのかもしれない。
恋愛にタブーは無い、なんて言うこともあるが、周囲のたくさんの人間に迷惑をかけてでも真実の愛を貫き通すことが、そんなにかっこいいことなのか。
まあ、恋愛小説、ドラマというのはそういうものなのだから仕方がないが。
ただ、そんなことをしても現実の世界では、年をとって何もかもがダメになってしまうことがほとんどだ。
号泣する準備などしなくても済むような恋愛や生き方をしたらどうなのだ、などと思う自分の考えは古すぎるのか。
しかし、号泣する自分に酔ってみたいなんて思っているバカ女が、今の世の中多くなってきている事はたしかなようだ。
この小説、直木賞も取っているくらいだから、その文体や世界にきっと優れた面があるのだろうが、私には、どうもこういう気取った文体の小説が性に合わないのだ。

![]() | ビリー・ホリデイの真実 ビリー・ホリデイ (1999/02/20) コロムビアミュージックエンタテインメント この商品の詳細を見る |
今まで観たこともないビリー・ホリデイの貴重な映像が楽しめる素晴らしいDVD。カーメン・マクレエを始めとするビリーゆかりの人物たちのインタビューも非常に興味深く面白い。
しかし、なんといってもこの作品のいちばん凄いところは、この不世出のヴォーカリスト、ビリー・ホリデイがあの独特の声、独特のフレーズをどういった表情で、どういった仕草で歌っていたのかを、ライブの映像で観られるという点だ。
映像で見るビリー・ホリデイは、やや中年になってからの映像が多いせいもあるかもしれないが、その切なげな声とは裏腹に、意外に恰幅のいい大柄な女性といった印象だ。
このDVDには、あのサッチモことルイ・アームストロングと共演している、超スゴイ映像が収録されているが、その映像でも何かサッチモより大きく見えるような気がする。
ウィキペディアで調べてみたところ、5フィート5インチ(165センチ)ということだから、当時の女性としては、けっこう大柄だったのかもしれない。
また、こういう声の素晴らしいヴォーカリストに多いが、その顔の大きさも印象的だ。
歌う時、伴奏を聴いている時の、かっと開いた大きくつぶらな瞳といい、この顔の大きさといい、何かすごくパワフルで生命力のあふれた女性に思えた。
時代が時代ということもあったが、彼女の人生はとにかく麻薬、麻薬にまみれた人生で、晩年のアルバム「レディ・イン・サテン」などを聴くと、その声の荒れ様といったら凄まじく、聴いていて怖くなるほどの迫力だが、それでもやっぱり彼女にとっていちばん幸せな時というのは歌っている時だったのかなあ、という気が、このDVDを観てるとしてくる。
それは、彼女の屈指の名曲「奇妙な果実」の映像を観ると分かる気がするのだ。
私は長い間、この悲惨すぎる内容の歌を、ビリー・ホリデイという人はいったいどんな感じで、どんな表情で歌っていたのかと思っていたが、このDVDで初めてこの歌を歌っているビリーの映像を観て、その意外なくらいすっきりとした明るい表情で歌う彼女の姿に少なからず驚いた。
某日本国の大歌手美空ひばり嬢のように毎回、涙を流して悲しい歌を歌うようなことはせず、こんなに暗く陰惨な歌でも、こんなすっきりと軽やかに歌ってしまう。
彼女はやはり歌を歌うことが好きでしょうがない人だったのだろう。
だから、どんな歌でも歌ってる時だけはすごく幸福だったのかもしれない。
ふだんの生活が悲惨すぎたから、歌っている時だけは幸福感に満ちていたとも考えられる。
こういう、生まれながらの歌手という人が何十年に一人現れる。









