
エルヴィス・プレスリーが日本も含めて、全世界に同時衛星生中継を行った伝説のステージ。1973年のエルヴィスは、おなじみの襟の高い白いジャンプスーツで、今見てもじつにかっこいい。60年代の若い頃のエルヴィスに比べ、たしかに太ってはいるが、まだそんなに醜いほど太っていないし、空手を思わせる豪快なアクションも健在で、ちっとも衰えは見られない。
だが、そんな見てくれうんぬんよりも、このステージでのエルヴィスの歌、声。
じつに歌に深みが増して素晴らしいものになっている。
私はまだ洋楽を聴いていなかった頃、エルヴィスに抱いていたイメージというのは、すでに中年のヴォーカリスト、おばさんのアイドルのシンガーといったイメージだった。
だが、20年以上も洋楽を聴き続けた今の私の耳で聴くこの映画でのエルヴィスはとてつもなく大きい存在に感じる。
これだけ様々なタイプの歌を全部、エルヴィス独自の歌にしてしまい、すべてを自分の世界に引き込んで歌ってしまう、この大きさ。
若い頃歌っていたロックンロールを歌っても、ちっとも古くさい感じにならないし、「マイ・ウェイ」を歌っても、ださくならない。最後の「好きにならずにいられない」だって、変に感情過多じゃなくてさらっとしていて、それでいて素敵なのは、やっぱりセンスがいいからだ。
エルヴィスだけ聴いていれば、アメリカの音楽がすべて分かるくらいのスケールの大きいシンガーに、この頃のエルヴィスはなっていた。
また、このコンサートは、現代の多くのコンサートみたいにやたらにアーティストが力が入って、張り切りすぎてて、こっちが疲れてしまうようなものになっていないところがいい。
エルヴィスもすごく楽しみながら歌っているし、観客もリラックスして観ている様子がよく伝わってきて、いいコンサートですねえ、これは。
女性ファンがエルヴィスの汗をふいたスカーフをもらって狂ったように大喜びするおなじみのシーンや、観客の熱狂する様子を見て吹き出しながら歌ったりするシーンなど、思わず笑ってしまうシーンがいっぱいあって、エルヴィス・プレスリーという人の人間的な魅力が感じられる。
だって今どき、あんな汗を拭いたスカーフを配れるアーティストなんて、ほかにいませんよ。
強烈な個性と、幅広い歌唱力。
やはり、この人を上回るシンガーは歴史上現れていないのではないだろうか。


